山本能楽堂「すまほ能」

「すまほ能」は、山本能楽堂が2021年度文化庁委託事業「文化芸術収益力強化事業」として、コロナ禍における新たな観能体験の構築を試みたプロジェクトです。羽衣と土蜘蛛という2つの能楽を代表する演目を、正面、ワキ正面、橋掛かりの3視点から180°高解像度映像で記録し、有料でのマルチアングル配信をシステム構築から担当しました。現代における舞台芸術との新たなかかわり方、そして未来に向けた伝統文化の保存継承を同時に実現する手法を開発しました。

コロナ禍で試みた新しい能楽体験の在り方

2020年1月コロナウイルスの蔓延によって、すべての劇場ではリアルな鑑賞体験を提供することができなくなりました。能楽は、能舞台という空間で舞うことで初めて完成する演目であり、安易に2D映像で配信することは本来の価値を損なう可能性がありました。そこで、180度マルチアングル配信システムを開発。「自由視点」というデジタルならではの体験価値を考えました。

3方向から180度高解像度映像で同時記録

実際の撮影は、3方向から180度レンズを取り付けた高解像度カメラで同時記録を行いました。音声も立体的に記録、それぞれの視点で音の聞こえ方が異なるように設計することで、実際の体験をできる限り忠実に近づけることを試みました。

3Dスキャンシステムを用いた能舞台記録

360度映像では体験を記録しましたが、より俯瞰的な体験を提供するためにMatterport(マターポート)を使用して、能楽堂全体の3Dスキャンを行いました。観客が実際に能舞台に上がることは叶いませんが、デジタル上では能舞台の裏側まで体験することが可能です。

フォトグラメトリを用いた能面アーカイブ

小面と般若、演目で実際に使用される能面をまるで手に取るように鑑賞することができる体験を提供。フォトグラメトリという技術を活用し、360度方向から記録した写真を元に3次元データを生成しました。能楽師しか見ることができない能面の裏側まで、細かな素材感も忠実に再現しました。