「海」を知り、「海」を考える。WHERENESSで広がる学びの可能性

「海」を知り、「海」を考える。WHERENESSで広がる学びの可能性

「海」を知り、「海」を考える。WHERENESSで広がる学びの可能性

2023/01/09

一般社団法人3710Lab(みなとラボ) 代表理事 田口 康大さん‍‍

「海について考える」ため、幅広い切り口で活動を展開

‍私たちが暮らす日本は、四方を海に囲まれた島国です。

文化、風習、経済…日本人のアイデンティティを海なしに語ることはできないでしょう。現在の子どもたちへの教育カリキュラムでは、海の産業や港の役割、海洋ごみ問題などの断片的な知識は教えています。しかし実は、「海」そのものについて考える時間は、どこにも設けられていないんです。

人々が自分と海との関わりを考え、話し合う場を作りたい。

そんな想いで、2015年に一般社団法人3710Lab(みなとラボ)を立ち上げました。

みなとラボの活動目的は「海と人とを学びでつなぐ」。デザイナーや編集者、研究者、教育者など、さまざまな専門性を持った方々と連携し、プロジェクトを展開しています。今回WHERENESSでコンテンツ化したのは、2023年9月29日〜10月9日に開催した「国際海洋環境デザイン会議 『OCEAN BLINDNESSー私たちは海を知らない』」の展示です。

国際海洋環境デザイン会議の立ち上げは2022年。「海に対してデザインができることとは?」という問いを社会に投げかけ、アクションにつなげることが目的でした。現状の課題解決でもいいし、海の魅力発信でもいい。デザインの力と海とが接続したときに生まれる可能性を、デザイナーやアーティストの方々とともに考えてみたかったんです。第2回目となる今回は昨年からの成果報告も兼ねており、デザイナーやアーティストなど19組の方々の展示と、商品化されているプロダクトの展示を行いました。

展示を360°映像で記録し
WHERENESS上のコンテンツとして公開

実は、展示を始める前は、360°映像で記録しようという考えはまったくありませんでした。記録としては、写真と動画とを考えていました。
展示2日目、we+(ウィープラス)というデザインスタジオの成果報告の場で、360°カメラで撮影されたリサーチの風景映像を初めて目にしました。私もそのリサーチには同行していたのですが、360°映像には実際のリサーチ時のリアルな感じが映っていて、臨場感がすごくて。こんな記録方法があるのか、と。360°映像の存在は知ってはいたものの、想像以上に可能性を感じました。ちょうどその時、アクチュアルの方が同じ場に居合わせていたので、急遽、展示会場の記録を依頼させていただいたんです。

今回は展示の様子を360°映像で記録し、WHERENESS上でコンテンツ化することを目標にしました。360°カメラでの撮影と基本的な編集をアクチュアルに依頼し、最後の編集は自らWHERENESS上で行いました。WHERENESSは操作が直感的にわかりやすいデザインになっていたので、事前に説明を受けなくても問題なく扱えました。

編集にあたっては、それぞれの作品の情報を画面内に埋め込める「タグ」機能が非常に役立ちました。会場に展示していた解説パネルの画像をアップロードするだけだったので、手間もかからず。想像していたよりもずっと簡単でした。

偶然が重なって急遽実現した撮影でしたが、360°で記録を残すことができて本当によかったと思っています。完成した360°映像を見ると、空間の再現性が高く、通常の映像とは異なる体験を作れると感じました。どんな作品がどこに置かれていたのか、会場内の全景を、ワンショットで把握できます。会期中に足を運べなかった人も、その場にいたかのように作品鑑賞ができるでしょう。

また、”音”の存在も、空間の再現性の高さにひと役買っていると思います。会場内には音を使ったインスタレーションが展示されていたのですが、この音が特徴的で…波の音なのか人の声なのか。この音が入っていることで、WHERENESS上の映像が、よりその時の空間に近づいているなと感じます。まあ、ちょっとインパクトがあるので(笑)、今後のWHERENESSのアップデートで、音量をより細かく調整できる機能が追加されたらいいですね。

公開中の第2回国際海洋環境デザイン会議 『OCEAN BLINDNESSー私たちは海を知らない』



WHERENESSの活用で
場所や時間の制約を受けない展示が可能に‍

完成した映像を関係者に見せたところ、ふたつの反応が返ってきました。ひとつが、「会期中に来られなかった人に見てもらえる」「『もう1回見たかった』という声に応えられる」といった喜びの声。そしてもうひとつが、「360°コンテンツを活用すれば、これまでになかった新しいことができるね」という提案です。後者は、私としてもすごく面白いなと思いました。
WHERENESS上で公開すれば、開催場所を問わず、どこからでも見てもらえる前提で企画が考えられます。極端な話、1日だけ会場を借りて撮影したら、あとはWHERENESS上でプログラムを実施したりしながらの開催が可能かも、と。場所と時間の制約を受けないこのスタイルは、結構ありかも、と考えています。

また、WHERENESSは展示だけではなく、その他のプログラムの企画にも役立ちそうです。たとえば子どもたちが360°カメラを使って撮影し、自分たちの手で編集し、学習内容や成果物を発表したり、といったような。360°映像という新しい表現方法を得て、実施内容の可能性が大きく広がりました。

子どもたちが主体となって行う海洋教育プログラム

みなとラボでは、国際海洋環境デザイン会議のような「海洋デザインプロジェクト」に加え、主として子どもたちを対象にした「海洋教育」にも力を入れています。対象は幼児から小学生、高校生までと幅広く、プログラムごとにテーマを決めて取り組みます。たとえば、海洋ごみについての授業を実施したいと依頼があった学校では、海岸に落ちている漂着ゴミがどこから来たのかを想像し、物語を作って1冊の本にする。漂着物からオリジナルの模様をデザインしてTシャツを作る。地元の海の魅力をまとめた特集記事を作り、雑誌に掲載する、など。

プログラム終了後に完成するものは毎回異なり、ひとつとして同じものはありません。これは、何かしらを制作するのが目的ではないことが前提にあって、プロジェクトを通して成しとげたいことを、子どもたち自身が考え、提案し、みんなで話し合って決めているためです。私たちみなとラボのメンバーは子どもたちの活動をサポートし、デザインや編集などでアウトプットの仕上げを行ったり、逆に私たちが行うプログラムに子どもたちがメンバーとして参加したりという形もあります。いずれにせよ子どもたち含めて、みんなが、それぞれのやり方を大事にしながら取り組むことを大事にしています。

子どもたちが主体となって行う話し合いは、ときには方向性が迷走したり、言い合いになったり、葛藤にぶつかったりすることもあります。しかし、そのような試行錯誤こそが、私たちが教育プログラムを行う最大の目的。「成果」そのものではなく、「成果に至るまでの過程」で何を感じ、何を考えるのか。そこにこそ、かけがえのない価値があると考えています。子どもたちの豊かな思考は、子どもたち自身だけにとってはなく、私たち大人を含めた社会全体にとっても財産と呼べるものです。

子どもたちには「海」という入り口を通して伝えたいことがたくさんあります。デザイナーや編集者など、未知の職業に触れて「こんな仕事もできるんだ」と思ってもらうこと。自身の興味があれば、分野にとらわれない新しい学びを切り拓いていけること…みなとラボの活動で何らかの影響を受けてくれた子たちの反応が、何年も経ってから思わぬところで返ってくることもあります。自分が子どもたちに手渡したいと思っているのものが、「伝わった」と感じる瞬間は奇跡的なものです。それが嬉しくて、この活動を続けているのかもしれません。

みなとラボから生まれたさざ波が、社会へ広がっていくことを願って

「海」と「教育」とを切り分けずに結びつける。こうした分野横断的な取り組みが、これからもっと増えていけばいいと感じています。国際海洋環境デザイン会議は、デザイナーやアーティスト、建築家など、さまざまな職業の方とともにつくりあげています。さまざまな職業の人たちが足を運んでくれて、「こんな取り組みを待っていました」「私も一緒にやりたいです」という声を多くいただいて。現状では、好きなことや突き詰めたいことを、自身の仕事のスキルを生かしてアウトプットする場がなかなかないのかもしれません。みなとラボの活動に関わってくれた方々が、「こういうこともできるんだ」と気づき、新しい融合の場を生み出してくれたら嬉しいです。

活動のゴールをひとつ挙げるとしたら、海と人との関わりをアーカイブし、関わりを作っていくような起点となる施設ができること、でしょうか。それはミュージアムかもしれないですし、研究所のようなところかもしれません。形は何であれ、「しっかりと残さなきゃいけないよね」という認識が社会に広まり、その結果として生まれるものであってほしい。きっとそれが、社会に「海」という視点がインストールされた瞬間になるのだと思います。

一般社団法人3710Lab(みなとラボ) 代表理事 田口 康大さん‍‍

「海について考える」ため、幅広い切り口で活動を展開

‍私たちが暮らす日本は、四方を海に囲まれた島国です。

文化、風習、経済…日本人のアイデンティティを海なしに語ることはできないでしょう。現在の子どもたちへの教育カリキュラムでは、海の産業や港の役割、海洋ごみ問題などの断片的な知識は教えています。しかし実は、「海」そのものについて考える時間は、どこにも設けられていないんです。

人々が自分と海との関わりを考え、話し合う場を作りたい。

そんな想いで、2015年に一般社団法人3710Lab(みなとラボ)を立ち上げました。

みなとラボの活動目的は「海と人とを学びでつなぐ」。デザイナーや編集者、研究者、教育者など、さまざまな専門性を持った方々と連携し、プロジェクトを展開しています。今回WHERENESSでコンテンツ化したのは、2023年9月29日〜10月9日に開催した「国際海洋環境デザイン会議 『OCEAN BLINDNESSー私たちは海を知らない』」の展示です。

国際海洋環境デザイン会議の立ち上げは2022年。「海に対してデザインができることとは?」という問いを社会に投げかけ、アクションにつなげることが目的でした。現状の課題解決でもいいし、海の魅力発信でもいい。デザインの力と海とが接続したときに生まれる可能性を、デザイナーやアーティストの方々とともに考えてみたかったんです。第2回目となる今回は昨年からの成果報告も兼ねており、デザイナーやアーティストなど19組の方々の展示と、商品化されているプロダクトの展示を行いました。

展示を360°映像で記録し
WHERENESS上のコンテンツとして公開

実は、展示を始める前は、360°映像で記録しようという考えはまったくありませんでした。記録としては、写真と動画とを考えていました。
展示2日目、we+(ウィープラス)というデザインスタジオの成果報告の場で、360°カメラで撮影されたリサーチの風景映像を初めて目にしました。私もそのリサーチには同行していたのですが、360°映像には実際のリサーチ時のリアルな感じが映っていて、臨場感がすごくて。こんな記録方法があるのか、と。360°映像の存在は知ってはいたものの、想像以上に可能性を感じました。ちょうどその時、アクチュアルの方が同じ場に居合わせていたので、急遽、展示会場の記録を依頼させていただいたんです。

今回は展示の様子を360°映像で記録し、WHERENESS上でコンテンツ化することを目標にしました。360°カメラでの撮影と基本的な編集をアクチュアルに依頼し、最後の編集は自らWHERENESS上で行いました。WHERENESSは操作が直感的にわかりやすいデザインになっていたので、事前に説明を受けなくても問題なく扱えました。

編集にあたっては、それぞれの作品の情報を画面内に埋め込める「タグ」機能が非常に役立ちました。会場に展示していた解説パネルの画像をアップロードするだけだったので、手間もかからず。想像していたよりもずっと簡単でした。

偶然が重なって急遽実現した撮影でしたが、360°で記録を残すことができて本当によかったと思っています。完成した360°映像を見ると、空間の再現性が高く、通常の映像とは異なる体験を作れると感じました。どんな作品がどこに置かれていたのか、会場内の全景を、ワンショットで把握できます。会期中に足を運べなかった人も、その場にいたかのように作品鑑賞ができるでしょう。

また、”音”の存在も、空間の再現性の高さにひと役買っていると思います。会場内には音を使ったインスタレーションが展示されていたのですが、この音が特徴的で…波の音なのか人の声なのか。この音が入っていることで、WHERENESS上の映像が、よりその時の空間に近づいているなと感じます。まあ、ちょっとインパクトがあるので(笑)、今後のWHERENESSのアップデートで、音量をより細かく調整できる機能が追加されたらいいですね。

公開中の第2回国際海洋環境デザイン会議 『OCEAN BLINDNESSー私たちは海を知らない』



WHERENESSの活用で
場所や時間の制約を受けない展示が可能に‍

完成した映像を関係者に見せたところ、ふたつの反応が返ってきました。ひとつが、「会期中に来られなかった人に見てもらえる」「『もう1回見たかった』という声に応えられる」といった喜びの声。そしてもうひとつが、「360°コンテンツを活用すれば、これまでになかった新しいことができるね」という提案です。後者は、私としてもすごく面白いなと思いました。
WHERENESS上で公開すれば、開催場所を問わず、どこからでも見てもらえる前提で企画が考えられます。極端な話、1日だけ会場を借りて撮影したら、あとはWHERENESS上でプログラムを実施したりしながらの開催が可能かも、と。場所と時間の制約を受けないこのスタイルは、結構ありかも、と考えています。

また、WHERENESSは展示だけではなく、その他のプログラムの企画にも役立ちそうです。たとえば子どもたちが360°カメラを使って撮影し、自分たちの手で編集し、学習内容や成果物を発表したり、といったような。360°映像という新しい表現方法を得て、実施内容の可能性が大きく広がりました。

子どもたちが主体となって行う海洋教育プログラム

みなとラボでは、国際海洋環境デザイン会議のような「海洋デザインプロジェクト」に加え、主として子どもたちを対象にした「海洋教育」にも力を入れています。対象は幼児から小学生、高校生までと幅広く、プログラムごとにテーマを決めて取り組みます。たとえば、海洋ごみについての授業を実施したいと依頼があった学校では、海岸に落ちている漂着ゴミがどこから来たのかを想像し、物語を作って1冊の本にする。漂着物からオリジナルの模様をデザインしてTシャツを作る。地元の海の魅力をまとめた特集記事を作り、雑誌に掲載する、など。

プログラム終了後に完成するものは毎回異なり、ひとつとして同じものはありません。これは、何かしらを制作するのが目的ではないことが前提にあって、プロジェクトを通して成しとげたいことを、子どもたち自身が考え、提案し、みんなで話し合って決めているためです。私たちみなとラボのメンバーは子どもたちの活動をサポートし、デザインや編集などでアウトプットの仕上げを行ったり、逆に私たちが行うプログラムに子どもたちがメンバーとして参加したりという形もあります。いずれにせよ子どもたち含めて、みんなが、それぞれのやり方を大事にしながら取り組むことを大事にしています。

子どもたちが主体となって行う話し合いは、ときには方向性が迷走したり、言い合いになったり、葛藤にぶつかったりすることもあります。しかし、そのような試行錯誤こそが、私たちが教育プログラムを行う最大の目的。「成果」そのものではなく、「成果に至るまでの過程」で何を感じ、何を考えるのか。そこにこそ、かけがえのない価値があると考えています。子どもたちの豊かな思考は、子どもたち自身だけにとってはなく、私たち大人を含めた社会全体にとっても財産と呼べるものです。

子どもたちには「海」という入り口を通して伝えたいことがたくさんあります。デザイナーや編集者など、未知の職業に触れて「こんな仕事もできるんだ」と思ってもらうこと。自身の興味があれば、分野にとらわれない新しい学びを切り拓いていけること…みなとラボの活動で何らかの影響を受けてくれた子たちの反応が、何年も経ってから思わぬところで返ってくることもあります。自分が子どもたちに手渡したいと思っているのものが、「伝わった」と感じる瞬間は奇跡的なものです。それが嬉しくて、この活動を続けているのかもしれません。

みなとラボから生まれたさざ波が、社会へ広がっていくことを願って

「海」と「教育」とを切り分けずに結びつける。こうした分野横断的な取り組みが、これからもっと増えていけばいいと感じています。国際海洋環境デザイン会議は、デザイナーやアーティスト、建築家など、さまざまな職業の方とともにつくりあげています。さまざまな職業の人たちが足を運んでくれて、「こんな取り組みを待っていました」「私も一緒にやりたいです」という声を多くいただいて。現状では、好きなことや突き詰めたいことを、自身の仕事のスキルを生かしてアウトプットする場がなかなかないのかもしれません。みなとラボの活動に関わってくれた方々が、「こういうこともできるんだ」と気づき、新しい融合の場を生み出してくれたら嬉しいです。

活動のゴールをひとつ挙げるとしたら、海と人との関わりをアーカイブし、関わりを作っていくような起点となる施設ができること、でしょうか。それはミュージアムかもしれないですし、研究所のようなところかもしれません。形は何であれ、「しっかりと残さなきゃいけないよね」という認識が社会に広まり、その結果として生まれるものであってほしい。きっとそれが、社会に「海」という視点がインストールされた瞬間になるのだと思います。

一般社団法人3710Lab(みなとラボ)
https://3710lab.com/

教育事業、研究・調査事業、メディア事業、教育及び研究・調査への支援・交流事業等

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ライター:土谷 真咲